相続トラブルイメージ

私の祖父の遺言状と時計の手紙

私の祖父は、頑固な老爺の見本のような人物でした。
自分のことは自分で始末をつける、と言って遺書も専門の機関に相談に行き、しっかりとした遺言状をしたためていました。
といっても考え方が古い人(少なくとも私はそう思っていました)でしたので、財産の相続はきっちりと、三人の子供達に等分していました。
その頃には祖母はすでに他界しておりました。
(祖母は私に形見としてコレクションしていた記念硬貨を残してくれていました)ですが、祖父の遺言状にはひとつだけ変わったことが書かれていました。
祖父の家には大人の背丈ほどもある柱時計がありました。
骨董品というわけではなく、それほど値段の付くものではありませんが、祖父は家を立てた時からあるこの時計をずっと大事にしていました。
私は幼い頃からこの時計のことをとても気に入っていて、「動かなくなって、いらなくなったらちょうだい」とねだっていましたが、「この時計は家を買って所帯を持ったときに記念として買ったものだ。
手放すつもりはない」と突っぱねられていました。
母曰く、物心付いた時からある家族のような存在だったそうです。
ですので、祖父の死後は長兄の叔父が引き取るのだろうなと思っていました。
しかし、祖父が癌を患って亡くなった後、遺書を開くと驚くようなことが書かれていました。
それは、あの柱時計を孫の私に譲るというものでした。
今まで頑なに譲らないと言っていたのに何故、と疑問でいっぱいでしたが、叔父と母に本当に私が相続してしまっていいのか聞き、それが祖父の遺志ならと三人とも了承してくれました。
私に残された柱時計は年代物もいいところでした。
時折油をさしてやったり、埃を払ったりしなければなりません。
しかし、ずっとこの時計が好きだった私にとってはとても楽しく、頑固な祖父が私に名指しで残してくれたということがとても嬉しく思えました。
四十九日が終わる頃、振り子の部分を磨いていると、紙のようなものが隠れていることに気がつきました。
広げて読んでみると、それは祖父から私に当てられた手紙でした。
かいつまんだ手紙の内容はこうです。
「この手紙はA(私の名前)、お前に向けて書いたものだ。この時計は以前話したとおり、私が戦争から復員してすぐ、お前の祖母と結婚してこの家を建てた当時記念に買ったものだ。本当は手放したくなかったので、どうせ死ぬなら壊して処分してしまおうかとも思ったが、お前があんまりこの時計を気に入っているので、お前なら大事にしてくれるだろうと思いこの時計はお前に残すことにした。この時計は私とお前の祖母、母、叔父達の歴史をずっと見守ってきてくれた。今度はお前のことを見守ってくれると信じている。この時計と、お前の母や叔父達をよろしく頼む。」この手紙を読んだとき、無口だった祖父の本心に触れられた気がしました。
私はこの時計をずっと大切にし続けるでしょう。
そしていつか、新しい家族に恵まれたとき、この時計に見守ってもらえるように幸せな家庭を築こうと手紙と時計に誓いました。

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